日本語版を読んでみた感想ですが、非常に明確な構造を持った内容で、読みやすいです。「本を読む本」と標榜するだけのことはあります。そしてこれは(おそらく「あなたもいままでの10倍速く本が読める」を読んだ限りでは)PhotoReading Whole Mind System でも利用される技術であると思われます。「速読の技術」という事ではなく、本の構造をつかむという意味で、PhotoReading にも援用されている技術なのでしょう。(結果的に本を読む速度が早くなる事はあると思いますが)
英語のオリジナル版は1940年発行ですが、世界各国で長年読み継がれてきた本だそうです。著者の一人Mortimer J. Adler博士はコロンビア大学の哲学の教授で、ブリタニカ百科事典の編集長を勤めた方だったそうです。どうりで哲学者の話が多いなと思いました(^^;
さて、本を読む技術は、4つのレベルからなると著者は主張しています。一つのレベルのなかには、いくつか段階があるとも述べています。参考までに日本語版からそのレベルと段階について骨組みを抜粋してみました。
(文は本を読む本からの引用抜粋、構成と一部番号付けに相違あり)
引用が長くなってしまいました(スミマセン)。日本語訳にも原書にもまとめのページがありますが、ここでは私が本文中から抜き書きしたものをアウトラインにしてみました。
- 初級読書
- (就学前)読み方準備期、視力聴力が十分に発達する、認識能力、発話能力、人格的準備
- (小学校一年〜)読み方を覚える、「文字」という記号から意味をつかむ
- (小学校四年頃)文脈からわからない単語の意味をつかむ技術、様々な内容の書物に手を伸ばす
- (小学校卒業〜中学校卒業)読書体験を自分のものにする、概念を消化して次の書物を読める、一つの主題について書物を比較できる
- 点検読書
- (点検読書1)組織的な拾い読み、または下読み
- 表題や序文を見る
- 本の構造を知るために目次を調べる
- 索引を調べる
- カバーに書いてあるうたい文句を読む
- その本の議論の要と思われるいくつかの章をよく見る
- 所々拾い読みしてみる
- (点検読書2)表面読み
- 難解な本に初めて取り組むときは、とにかく通読する
- 内容の難易度に応じた読書の速度
- 癖を直すには目の動きを手の動きを使って矯正する、徐々に速度を上げる練習をする
- 理解をする為に本を読む
- どんな種類の本か
- 全体として何を言おうとしているか
- そのために著者はどのような構成で概念や知識を展開しているか
- 分析読書
- 第一段階「概略」
- 読み始める前に点検読書によって本を分類する
- 書名
- 理論的or実践的
- その本全体の統一(Unityの訳で「まとめ」の意味で使っているようです)を、2,3行かせいぜいすう行の文にあらわしてみる
- 構想とプロット
- その本の主な部分を述べ、それらの部分がどのように順序よく統一性をもって配列されて全体を構成しているかを示す
- アウトラインをつかむ
- 分析読書の ii, iii の法則は書く事の法則でもある
- 著者の問題としている点は何であるかを知る
- 第二段階「解釈」
- 重要な単語を見つけ出し、それを手がかりにして著者と折り合いを付ける
『二つの手順が必要』
- 「言葉」を扱う
- その背後にある「思想」を論じる
(註:以下、日本語訳p.132では三つの決まりとしてv-viiの規則を第一、第二、第三としていますが、原書ではそれぞれ 5th Rule, 6th Rule, 7th Rule としています。日本語版では意味が通らなくなるので、(6番目の規則への言及が表面的に抜けるため)ここでは原書に習う事にします)- もっとも重要な分に注目して、そこに含まれる命題を見つける
- キー・センテンスを見つける
- 命題を見つける
- 一連の文から基本的な論証を見つけ、これを組み立てる
- 重要な論証を述べているパラグラフを見つける
- そのようなパラグラフが見つからないときはあちこちのパラグラフから文を取り出し、論証を構成する命題が含まれている一連の文を集めて論証を組み立てる
- 著者の解決が何であるかを検討する
- 第三段階「批評」
- 「この本がわかった」と、ある程度確実に言えるようにする。そのうえで「賛成」「反対」「判断保留」の態度を明らかにする
- 反論は筋道を立ててする。けんか腰はよくない。
- 反論は解消できるものだと考える
- いかなる判断にも、必ずその根拠を示し、知識と単なる個人的な意見の区別を明らかにする
- 反論に際しての四つの方法
- 知識の不足
- 知識の誤り
- 論理性の欠如
- 分析が不完全
- シントピカル読書
- 関連箇所を見つける
- 著者に折り合いを「つけさせる」
- 質問を明確にする
- 論点を定める
- 主題についての論考を分析する
以上でお分かりの通り、アウトラインプロセッサで書いたかのような見事な構成です。本の積極的な読み方について非常に整理されていると言えるでしょう。学生の方や、これから社会人になる若い人たちには是非読んでいただきたい一冊です。
もちろん、ベテランの方にもお薦めです。しかし、著者はスキーを例にとって読書法をもう一度学び直すことについて、「もう読書をするようになってから久しいのに、ここで改めて読書の仕方を習い直すなど屈辱に等しい」(講談社学術文庫版p.65より)とも述べているので、その罠にはまらないように、よく心に留め置く必要があるかもしれません。ついた「癖」はなかなかとれないものですから…
日本語版で私にとって残念だったことは、(おそらく編集の都合で)英語版の方にある章毎のまとめが無かったり、原著者の意向で割愛された文学以外の部分が「極めて、非常に」役に立つものに思われたことです。おそらく日本語での読書という特性に配慮されたのだと思います。科学や哲学、歴史、社会科学といった分野も読む機会が多くある方は、原書を入手して読む事をお薦めしたいと思います。シントピカル読書の前の部分に相当するものが多く割愛されているので、もちろん割愛されても全体としての統一はとれているのですが、よりわかりやすくなるのではないかと思います。
あらためて、こういう本は何度も読み込んで、是非良い読書習慣を身につけたいものだと思いました。
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